借金や管理困難な不動産を理由に、相続人が全員相続放棄をすることがあります。子が全員放棄すれば次順位の直系尊属へ、それも放棄または不存在であれば兄弟姉妹へと相続権が移り、その全員が放棄すると、法律上の相続人が一人もいない状態になります。このとき、残された財産は誰が管理し、最終的にどう処理されるのでしょうか。
相続人全員が放棄しても、相続財産が自動的に消えるわけではありません。その財産を清算する仕組みが、相続財産清算人(2023年施行の改正前は「相続財産管理人」)の制度です。本記事では、その役割と実際の処理の流れを、管理人としての経験を踏まえて解説します。
相続財産清算人とは
相続人のあることが明らかでない場合、相続財産は法人となり(民法951条)、家庭裁判所は利害関係人または検察官の請求によって相続財産清算人を選任します(民法952条)。清算人は、相続財産を管理し、債権者や受遺者に対して弁済を行い、最終的に残った財産があれば国庫に帰属させるという清算手続を担います。
2023年4月施行の改正により、従来の「相続財産管理人」は「相続財産清算人」に名称が改められ、公告の手続も整理されて、清算の完了までの期間が短縮されました。
誰が選任を申し立てるのか
清算人の選任を申し立てられるのは「利害関係人」または検察官です。利害関係人には、被相続人にお金を貸していた債権者、特定遺贈を受けた受遺者、特別縁故者として財産分与を求めたい者、被相続人の不動産の共有者などが含まれます。
実務では、相続放棄をした相続人自身が申立人になることもあります。放棄をしても保存義務や事実上の管理負担から解放されないため、清算人に財産を引き渡して負担を終わらせる目的で、放棄した相続人が選任を申し立てるという場面です。当事務所が関与した事案でも、相続放棄をした被相続人の子の一人が申立人となって清算人(当時の管理人)の選任を求めたケースがありました。
実例——売却困難な不動産を清算した事案
当事務所の弁護士が相続財産の管理人に選任され、実際に清算を行った事案があります。この事案では、相続財産の中に売却が非常に困難な不動産が含まれていました。崖条例の規制により建物の建替えができない土地で、しかも山の中まで荒れた土地が広がっているものの、境界が明確ではないため、通常の不動産取引では買い手がつかない物件だったのです。
一般的な売却活動では買主が現れず、処理には長期間を要しました。最終的には、その土地の事情を理解し、活用できる立場にあった近隣の住民が共同で購入するに至り、売却が実現しました。その売却代金をもって、債権者への返済を行い、清算を進めることができました。
この事案が示すのは、相続財産清算人の職務は、単に財産を換価して配当するという定型的な作業ではなく、売却困難な財産をどう現金化するかという実務的な工夫と、相応の時間を要することがあるという点です。清算人は、こうした困難な財産についても、換価の方法を検討し、粘り強く処理を進める役割を担います。
清算の流れと、残った財産の行方
清算人は、選任後、法令に従った公告を経て、判明した債権者や受遺者に対して相続財産の中から弁済を行います。弁済に充てるために、預貯金の解約や不動産の換価を行うことになります。
債権者・受遺者への弁済を終えてなお財産が残った場合には、特別縁故者(被相続人と生計を同じくしていた者、療養看護に努めた者など)からの申立てがあれば、家庭裁判所の判断により財産の全部または一部が分与されることがあります。それでも残った財産は、最終的に国庫に帰属します。
弁護士への相談について
相続人全員が放棄した後の財産処理は、清算人選任の申立てから、換価・弁済・清算の完了まで、専門的な手続が続きます。放棄をしたものの管理負担から解放されずに困っている方、被相続人の債権者として回収を検討している方、いずれの立場でも対応が可能です。
相続放棄そのものの手続については
相続放棄のページを、放棄後の管理義務については
相続放棄をしても管理義務が残る場合があるをご覧ください。