親と同居していた、あるいは親の近くに住んでいた兄弟姉妹が、親の通帳やキャッシュカードを管理しているものの、他の相続人に対してその中身を見せてくれない——このような相談は、相続開始後だけでなく、親の生前の段階でも数多く寄せられます。「きちんと管理しているのだから見せる必要はない」と拒まれる、あるいは感情的な対立からそもそも話が進まない、というケースです。
財産の中身が分からなければ、遺産分割の話し合いも、使途不明金の検討も始まりません。本記事では、財産を管理する相続人に預金の開示を求める方法と、その実務上の限界について、正直なところを解説します。
なぜ開示を拒むのか
開示を拒む側の理由は、実務上おおむね2つのパターンに分かれます。
一つは、「自分が責任をもって管理しているのだから、いちいち見せる必要はない」という考えです。必ずしも後ろめたさがあるわけではなく、管理を任されているという自負から、開示要求を「疑われている」と受け取って反発するケースです。もう一つは、単純に感情的な対立が背景にあり、他の相続人には何も渡したくない、話し合いにも応じたくないという態度になっているケースです。
いずれの場合も、任意の話し合いだけで開示を実現するのは難しいことが多く、法的な手段を検討することになります。
被相続人名義の口座は、相続人が照会できる
相続が開始している場合、被相続人名義の口座については、相続人の一人として金融機関に直接照会をかけることができます。他の相続人が通帳を握っていても、金融機関に対して残高証明書や取引履歴の開示を求めることで、通帳を見せてもらえなくても口座の動きを把握することが可能です。必要書類(被相続人の死亡が分かる戸籍、自分が相続人であることが分かる戸籍、身分証明書など)を揃えれば、管理者である相続人の協力がなくても手続を進められます。
まずはこの照会によって、被相続人名義の口座にどのような入出金があったのかを客観的に把握することが出発点になります。取引履歴の取得方法については
被相続人の預金を調べる方法で詳しく解説しています。
調停での提出命令という手段
金融機関への照会に加えて、遺産分割調停を申し立てた上で、裁判所を通じて資料の提出を求める手段があります。管理者である相続人が保管している通帳や関係資料について、調停・審判の手続の中で提出を促し、あるいは提出命令の申立てを行うことで、開示につなげる方法です。
任意の開示に応じない相手に対しては、金融機関への照会で客観的な取引履歴を押さえつつ、調停の場で資料提出を求めていくという二段構えが、実務上の基本的な進め方になります。
正直な限界——管理者名義の口座は追いにくい
ここは正直にお伝えすべき点です。被相続人名義の口座は上記の方法で追跡できますが、管理していた相続人自身の名義の口座——たとえば、親の預金がその相続人の口座に移されている疑いがある場合の、その相続人名義の口座——を開示させることは、実務上かなり困難です。
他人名義の口座は、本人でなければ金融機関への照会ができず、相続人であっても当然には取引履歴を取得できません。「親の金が兄の口座に移っているはずだから、兄の通帳を見せろ」という要求は、相手が任意に応じない限り、実現させる確実な手段が乏しいのが現実です。この限界を理解せずに「必ず開示させられる」と考えると、期待と結果が食い違うことになります。
したがって、実務上は、追跡可能な被相続人名義の口座の出金履歴を丁寧に分析し、そこから説明のつかない出金を特定して、使途不明金の問題として攻めていくのが現実的なアプローチになります。
被相続人名義口座の出金から使途不明金を追う
被相続人名義の口座の取引履歴が入手できれば、管理者が通帳を見せなくても、出金の時期・金額・頻度を客観的に把握できます。そこから、被相続人本人のための支出とは考えにくい出金を特定し、その使途について管理者に説明を求めていくことになります。管理者が合理的な説明をできない出金については、不当利得返還請求や損害賠償請求の対象として検討します。
出金が不正と評価されるかどうかの判断基準については
親の通帳に多額の出金がある|使途不明金として返還請求できるか判断するポイントを、認知症の親の口座からの出金への対応については
認知症の親の口座から出金されていた場合の法的対応をご覧ください。
弁護士への相談について
財産を管理する相続人が開示に応じない場合、被相続人名義口座の照会、調停での提出要求、使途不明金の追及と、段階的に手段を組み立てる必要があります。同時に、管理者名義口座の追跡には限界があることも踏まえ、現実的にどこまで追えるのかを見極めた上で方針を立てることが重要です。
「兄が親の通帳を見せてくれない」「管理を任せていたが使い込みが疑われる」という段階でも、まずはご相談ください。遺産分割全般については
遺産分割ページを、使途不明金問題については
使途不明金・生前出金のページをご覧ください。