遺留分と遺産分割はどちらを先に進めるべきか|手続の選択と順序を福岡の弁護士が解説
遺言があるケースで相続の紛争に直面したとき、遺言の内容によっては、「遺留分侵害額請求をすべきか、それとも遺産分割協議という形で話合いをするべきか」という手続選択に迷う場面があります。両者は法的な性質も、得られる結果も異なるため、どちらを選ぶかによって相続人同士の関係性はもちろん、最終的な取得額も大きく変わることもあります。
本記事では、遺言がある場合の遺産分割と遺留分侵害額請求の関係を整理し、どちらを選ぶべきかの判断基準を、実際の事案を交えて解説します。
遺言がある場合の原則——遺産分割は当然には行われない
有効な遺言があり、その中で「誰にどの財産を相続させる(遺贈する)」が定められている場合、その財産は遺言の効力によって取得者に承継されます。遺産分割協議を経る必要はなく、遺言執行者がいればその執行によって手続が進みますが、そもそも執行されなくても遺贈等の効力は生じています。
このような遺言によって取り分が不足する相続人に残された法的な手段は、遺留分侵害額請求です。遺言の効力自体は認めた上で、侵害された遺留分に相当する金銭の支払いを求めるものです。つまり、遺言がある場合の基本的な争い方は、遺産分割ではなく遺留分侵害額請求ということになります。
もっとも、相続人全員が合意すれば、遺言と異なる内容の遺産分割協議を行うことも可能です。遺言があっても、関係者全員が「遺言によらず話し合いで分けよう」と合意すれば、遺産分割協議による解決もあり得ます。ここに、手続選択の余地が生まれます。
実例——遺産分割の提案を断り、遺留分侵害額請求を選んだケース
当事務所が扱った事案に、この選択が結論を分けたケースがあります。
遺言によって遺産の大半の遺贈を受けることになった相続人が、他の共同相続人に対して遺産分割協議を持ちかけてきました。その背景には、遺言を執行する場合にかかる遺言執行の費用を回避したいという事情があったようです。提案の内容は、遺言をそのまま執行する場合よりも、他の相続人にとって有利なものでした。
しかし、こちらで検討したところ、遺留分侵害額請求を行った場合には、その提案額を上回る請求が認められる可能性が高いと判断されました。というのも、先方には遺産の中の不動産の評価として、相続税評価額の水準に拘っており、実勢価格を基準に代償金を支払う意向がなかったためです。そこで、有利に見えた遺産分割の提案には応じず、遺留分侵害額請求に向かう方針を採りました。結果として、遺産分割協議は成立せず、遺留分侵害額請求による解決を目指すことになりました。
この事案が示すのは、目の前の提案が「遺言執行より有利」であっても、それが最善とは限らないということです。遺留分侵害額請求で得られる金額と比較して初めて、その提案を受けるべきかどうかが判断できます。
遺産分割を先行させるべき場合
一方で、遺産分割協議を先行させることが合理的な場合もあります。判断のポイントは、大きく二つあります。
一つは、不動産などの財産の評価額について当事者間で認識が一致しているかどうかです。評価額に争いがなければ、遺産分割協議で柔軟に財産を分ける方が、金銭請求に限られる遺留分侵害額請求よりも、当事者の希望に沿った解決ができることがあります。遺留分侵害額請求は金銭の支払いを求める手続であり、「特定の不動産が欲しい」といった現物での取得の希望には応えられません。
もう一つは、提案されている遺産分割の内容が、遺留分侵害額請求で得られる金額を上回っているかどうかです。遺留分は「最低限の取り分」を金銭で確保する制度であるため、それを超える内容の遺産分割提案があるのであれば、その提案を受ける方が有利です。逆に、提案が遺留分相当額を下回るのであれば、遺留分侵害額請求を選ぶべきということになります。
整理すると、財産の評価に争いがなく、かつ提案が遺留分侵害額を超えるのであれば、遺産分割を先行させる。そうでなければ遺留分侵害額請求を選ぶ、というのが基本的な判断枠組みになります。
弁護士への相談について
遺言がある場合の手続選択は、遺留分侵害額請求で得られる見込み額を試算した上で、目の前の提案と比較して判断する必要があります。この比較を行わずに提案を受けてしまうと、本来得られたはずの金額を失うことになりかねません。相手方の提案が有利に見える場合ほど、その提案の背景と、他の選択肢との比較が重要になります。
遺留分侵害額請求の全体像については遺留分侵害額請求のページを、計算方法については遺留分の計算方法を、遺産分割全般については遺産分割ページをご覧ください。
