ある日突然、見覚えのない債権者から督促状が届き、開けてみると「亡くなった親族の相続人として、債務を支払ってください」という内容だった——このような形で、自分が相続人になっていたことを何年も経ってから知る方がいます。長年没交渉だった親族、前妻・前夫との間の子、絶縁状態にあった兄弟姉妹など、関係性が疎遠であるほどこうした事態は起こりやすくなります。
相続放棄には「相続の開始を知った時から3か月」という期限がありますが、このようなケースでは、すでに3か月どころか数年が経過していることも珍しくありません。本記事では、疎遠な親族の相続人になっていたことを後から知った場合の対応と、実務上の考え方を解説します。
起算点は「死亡を知った時」ではなく「自分が相続人だと知った時」
相続放棄の期限である3か月は、民法915条において「自己のために相続の開始があったことを知った時」から起算するとされています。多くの場合、これは被相続人の死亡を知った時と一致しますが、疎遠な親族のケースではそうとは限りません。
判例上、起算点は単に死亡の事実を知った時ではなく、自分が法律上の相続人であることを知った時、あるいは通常それを知り得た時とされています。前妻の子であることを知らされていなかった、養子縁組の事実を知らなかった、先順位の相続人が全員相続放棄をしたことで自分に相続権が移ったことを知らなかった、といった事情がある場合には、それを知った時点が起算点になります。
実際の事案——5年経過後の申述
当事務所が扱った事案では、相続開始から実に5年が経過した後に、被相続人が負っていた債務の債権者から督促状が届いたことで、初めて相続が開始していたことを知ったというケースがありました。
このケースでは、起算点を「督促状を受け取った時」として申述を行い、疎明資料として督促状そのものを提出しました。背景には、依頼者が前妻の子であり、被相続人とは長年にわたり接触がなかったという事情があります。家庭裁判所はこの経緯について特に問題視することなく受理し、追加の資料提出を求められることもありませんでした。前妻の子という関係性自体が、長期間気づかなかったことについて自然な説明として受け止められた印象です。
このように、何年経過していたとしても、起算点となる「相続人であることを知った時」から3か月以内であれば、相続放棄が認められる可能性があります。「もう何年も経っているから諦めるしかない」と判断する前に、まず起算点を整理することが重要です。
申述にあたって準備すべきもの
起算点を遅らせて申述する場合、家庭裁判所に対して、なぜその時点まで相続の事実や自分が相続人であることを知らなかったのかを、合理的に説明できる資料を準備することが望ましいです。
督促状や債権者からの通知書は、知った時期を客観的に示す重要な資料になります。あわせて、被相続人との関係性(前妻の子である、長年音信不通だったなど)を示す戸籍関係の資料や、それまで接触がなかった事情を簡潔に説明できるようにしておくと、申述がスムーズに進みやすくなります。
なお、関係性によって裁判所の受け止め方は異なります。たとえば同居していた家族であれば「気づかなかった」という説明には慎重な検討が必要になりますが、戸籍上は親族であっても実態として何十年も交流がなかったような場合には、合理的な説明として受け入れられやすい傾向があります。
放棄を決める前に確認しておきたいこと
督促状が届いた段階では、債務の総額や、他にプラスの財産がないかをまだ把握できていないことがほとんどです。相続放棄をすればプラスの財産も含めて一切を引き継がないことになるため、可能な範囲で財産状況を確認した上で判断することが望ましいです。ただし、3か月の期限は財産調査が終わっていなくても進行するため、調査と並行して申述の準備を進める必要があります。
また、自分が相続放棄をすると、次順位の相続人(被相続人の親や兄弟姉妹など)に相続権が移ります。疎遠な関係であっても、放棄の事実を伝えておかないと、次順位の親族が同じように何年も経ってから督促状を受け取るという事態になりかねません。可能であれば、放棄をした旨を次順位の親族に伝えておくことをお勧めします。
弁護士への相談について
疎遠な親族からの相続は、起算点の整理、必要書類の収集、申述書の作成のいずれにおいても、一般的な相続放棄のケースより慎重な対応が必要です。督促状が届いて驚かれた段階でも、まずは状況をお聞かせください。
相続放棄の基本的な手続・期限・単純承認のリスクについては、
相続放棄のページをご覧ください。放棄後に債権者から連絡が来た場合の対応については
相続放棄後に債権者から請求が来たらどうするかもあわせてご参照ください。