遺留分侵害額請求を検討する上で、まず押さえなければならないのが「自分の遺留分がいくらになるか」という計算です。遺留分の計算は、基礎財産の確定・法定相続分に応じた割合の適用・侵害額の算定という順序で進みますが、それぞれの段階で争点が生じやすく、単純な計算では済まないことがあります。 特に基礎財産の確定は、相手方が財産を十分に開示しないことが多く、追加開示を求めながら時間をかけて積み上げていく作業になります。本記事では、遺留分計算の基本的な考え方と、実務上問題になりやすいポイントを解説します。

遺留分の割合

遺留分の割合は、誰が相続人になるかによって異なります。相続人が直系尊属(父母・祖父母)のみの場合、遺留分の総体的割合は相続財産の3分の1です。それ以外の場合(子が相続人となる場合、配偶者のみの場合、配偶者と子の場合など)は、相続財産の2分の1が遺留分の総体的割合となります。兄弟姉妹には遺留分がありません。 各相続人の個別的遺留分は、この総体的割合に法定相続分を乗じて算出します。たとえば、相続人が配偶者と子2人の場合、配偶者の法定相続分は2分の1、子それぞれの法定相続分は4分の1です。遺留分の総体的割合が2分の1ですから、配偶者の個別的遺留分は4分の1(2分の1×2分の1)、子それぞれの個別的遺留分は8分の1(2分の1×4分の1)となります。

遺留分算定の基礎財産——何を「財産」とカウントするか

遺留分の計算の基礎となる財産(遺留分算定基礎財産)は、単純に相続開始時の遺産の総額ではありません。民法1043条は、被相続人が相続開始時に有していた財産の価額に、一定の贈与の価額を加算し、そこから債務の全額を控除したものを基礎財産とすると定めています。 加算される贈与には、相続人に対するものと第三者に対するもので扱いが異なります。相続人に対する贈与は原則として相続開始前10年以内のものが対象となり、第三者に対する贈与は原則として相続開始前1年以内のものが対象です。ただし、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って行った贈与については、この期間制限がありません。 実務上、この基礎財産の確定が最も争いになりやすい部分です。相手方が自発的に財産を開示することは少なく、こちらから資料の開示を求め、開示された内容が不十分であればさらに追加開示を求めるという交渉が続くことがほとんどです。財産の全体像が確定するまでに相当の時間がかかることを前提に進める必要があります。

記録のない財産をどう把握するか——貴金属換金の事例

基礎財産に含まれるべき財産が、客観的な記録のない形で存在することがあります。その典型が、現金や貴金属などの動産です。 当事務所が扱った事案では、遺言で全財産を取得した相続人が、被相続人から生前に譲り受けたゴールドを換金していたという事実が問題になりました。遺留分を請求する側がその事実を主張したものの、換金先の業者が特定できず、大手の貴金属取扱業者に手当たり次第に照会を行っても当初は発見できませんでした。その後、依頼者の記憶を手がかりに特定の業者に改めて照会を行い、最終的に取引の事実を確認することができました。金額が大きかったこともあり、この調査結果が依頼者の納得感につながった事案です。 このように、帳簿や通帳に残りにくい動産・現金の移動は、調査に時間と手間がかかります。「記録がないから諦める」のではなく、あらゆる手段で裏付けを探すことが重要です。

不動産評価をめぐる争点

基礎財産に不動産が含まれる場合、その評価額をどう算定するかが争点になることがあります。固定資産税評価額・路線価・不動産鑑定士による鑑定額など、採用する方法によって金額が大きく異なるため、立場によって主張する評価額が変わります。 共有不動産が含まれるケースでは、「共有者がいる以上、単独所有より価値が低い(共有減価)」という主張が相手方からなされることがあります。当事務所が扱った事案でも共有減価の主張を受けましたが、こちらは持分割合での評価を主張し、最終的には双方の歩み寄りで決着しました。共有減価をどの程度認めるかは事案によって異なり、一律に認められるものではありません。 老朽化した建物が含まれる場合には、建物の現況評価か、解体費用を控除した更地評価かが争点になることがあります。当事務所が関与した事案では、建物が実際に使用されていなかったことを踏まえ、解体費用を控除した更地評価を主張しました。借地の底地としての評価よりも更地評価の方が依頼者にとって有利な結論になるケースで、現実的な解決に至りました。評価方法の選択は、どちらが依頼者にとって有利かを見極めた上で主張を組み立てることが重要です。

遺留分侵害額の計算

個別的遺留分額が確定したら、次に実際に侵害されている額を算定します。遺留分侵害額は、個別的遺留分額から、遺留分権利者が遺産分割で取得した財産の価額と、遺留分権利者が受けた特別受益の価額を差し引き、遺留分権利者が承継した相続債務の額を加算して算出します(民法1046条2項)。 具体例で示します。基礎財産が6000万円、相続人が子2人(AとB)のみで、遺言により全財産をAに相続させるという内容だった場合を考えます。遺留分の総体的割合は2分の1、Bの法定相続分は2分の1ですから、Bの個別的遺留分は6000万円×2分の1×2分の1=1500万円です。BはAに対して1500万円の遺留分侵害額請求ができることになります。

内容証明の送付——時効より遅延損害金を意識する

遺留分侵害額請求権には、遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年という消滅時効があります。この時効を止めるために内容証明を送るという説明がよくなされますが、実務上はそれ以上に重要な意味があります。 遺留分侵害額請求権は、請求の意思表示をした時から遅延損害金が発生します。つまり、内容証明を送った日が遅延損害金の起算点になります。基礎財産の確定や計算が完了していない段階であっても、まず内容証明を送付して請求の意思表示をしておくことで、その後の交渉期間中も遅延損害金が積み重なっていきます。 相手方もこの仕組みを理解していることが多く、交渉の早期解決を促す要因の一つになります。「計算が終わってから請求しよう」と先送りにすることは、依頼者にとって不利な選択です。

交渉による解決が多い

遺留分侵害額請求は、調停や訴訟に進む前の交渉段階で解決に至ることが多い類型です。基礎財産の確定に時間がかかるとはいえ、最終的な請求額の見通しが双方に立った段階で、話し合いによる解決に向かうケースが多い印象です。ただし、請求額が高額になるほど、あるいは財産の評価方法について主張の隔たりが大きいほど、調停に進みやすくなります。 調停に進んだ場合でも、調停段階で提出した資料と主張の積み重ねが結果を左右します。交渉段階から丁寧に資料を整理しておくことが重要です。

弁護士への相談について

遺留分の計算は、基礎財産の確定から評価額の判断まで、専門的な検討が必要な場面が多くあります。「自分の遺留分がいくらになるか分からない」「生前贈与があったが計算に含まれるか不明」という段階でも、まずはご相談ください。早い段階で内容証明を送付し、遅延損害金の起算点を確定させることが依頼者の利益につながります。 遺留分侵害額請求の手続・交渉・調停への対応については、遺留分侵害額請求のページで詳しく解説しています。また、遺留分を侵害する可能性がある遺言の設計については、遺言書作成のページもあわせてご参照ください。