相続が開始した後、被相続人の財産を管理していた相続人でなければ、「被相続人の預金口座がどの銀行にあるか分からない」「(財産を把握している相続人から)通帳を見せてもらえない」「生前に多額の出金があったようだが詳細が不明」といった状況になることは珍しくありません。遺産の全体像を把握するため、あるいは使途不明金の問題を調査するために、預金の調査には相続手続の早い段階で取り組む必要があります。

もっとも、被相続人名義の口座だからといって、相続人が簡単に情報を取得できるわけではありません。金融機関ごとに対応が異なり、また調査の手段によって取得できる情報の範囲も変わります。本記事では、預金調査の主な手段とその実務上のポイントを整理します。

まず確認すべき手がかり

金融機関への正式な照会を行う前に、手元にある資料から手がかりを探すことが出発点です。被相続人の自宅に残された通帳・キャッシュカード・銀行からの郵便物(残高のお知らせ・利用明細など)は、取引金融機関を特定する重要な手がかりになります。また、確定申告書や源泉徴収票に記載された口座情報、固定資産税の納付書の口座振替欄なども参考になります。

複数の金融機関に口座がある可能性がある場合には、手がかりが見つかった金融機関から順に照会を進めることになります。

相続人による照会——窓口での手続き

相続人は、被相続人の口座について金融機関の窓口で残高照会・取引履歴の開示を求めることができます。必要書類は金融機関によって異なりますが、一般的には被相続人の死亡を証明する戸籍謄本、相続人であることを証明する戸籍謄本、照会者本人の身分証明書などが必要です。

取引履歴については、金融機関が保存している期間の範囲で開示を受けることができます。過去の一定期間(概ね10年間)を超えると保存されていない場合があり、使途不明金の調査においては早期の照会が重要です。

なお、相続人が複数いる場合でも、基本的には各相続人が単独で照会できます。ただ、預貯金の払出などの手続には全相続人の同意が求められます。

弁護士照会(弁護士法23条の2)

弁護士は、受任した事件について必要な事項の報告を公私の団体に求めることができます(弁護士法23条の2)。金融機関への弁護士照会では、口座の存否・残高・取引履歴の開示を求めることが可能で、相続人本人が窓口で手続きするよりもスムーズに対応してもらえる場合があります。

ただし、弁護士照会はあくまで任意の協力を求めるものであり、金融機関が回答を拒否した場合に強制する手段はありません。実務上は多くの金融機関が一定の範囲で回答しますが、照会先や照会内容によっては回答が得られないこともあります。

調停・審判における調査嘱託

遺産分割調停や審判が申し立てられている場合、裁判所を通じた「調査の嘱託」という手段があります。家庭裁判所が金融機関に対して口座情報・取引履歴の回答を求めるもので、任意照会では開示を拒否された情報が得られる場合があります。

調査嘱託は当事者の申立てによって裁判所が行うものであり、全ての情報が開示されるわけではありませんが、弁護士照会では対応が困難だった金融機関への照会に有効なことがあります。使途不明金の問題を調停の中で取り扱う場合には、この手段を早い段階から念頭に置いておくことが重要です。

調査で出金の事実が判明した場合

取引履歴の照会により、相続開始前後に多額の出金や特定の口座への送金が繰り返されていたことが判明することがあります。こうした出金が被相続人本人の意思によるものか、特定の相続人が無断で行ったものかの判断は、出金時期・金額・被相続人の状態・管理していた相続人の説明などを総合的に検討する必要があります。

調査の結果と法的な対応の方針については、使途不明金・生前出金のページで詳しく解説しています。「通帳を確認したら気になる出金がある」という段階でも、まずはご相談ください。遺産分割全体の進め方については遺産分割ページもあわせてご覧ください。