遺産分割の話し合いが難航する理由は、法律の問題だけではありません。むしろ、故人(被相続人)と自らの生前の関係性や、相続人同士の関係性、言いたくて言えなかった想いと、それを相手が理解してくれないこと。
「介護をしてきたのは自分だ。他の兄弟は自分に任せきりだったのに、何の感謝もない。」
「生前に兄だけが多額の援助をしてもらっていた。なのに今ももらおうとしているなんて。」
「思い出の詰まった家を守りたい。他の兄弟はみんな売ろうとしているのが許せない。」
——こうした言い分はどれも間違いとは言い切れません。それぞれに切実な事情があります。

ただし、ここでの問題は、お互いに相手に対してそういった思いをしていることが多く、どちらも間違っていない、というケースです。情報の非対称性、互いに相手の言い分は十分把握しないまま、法的な権利だけが独り歩きして、話し合いが進んでしまうと、なかなかお互いに譲れなくなってしまいます。

感情的な対立が表面化してしまうと、財産の額に関わらず話し合いは止まり、関係の修復も難しくなります。
遺産分割で揉めないためには、①弁護士を入れる前にきちんと感情を伝える、または弁護士を入れるのは揉めたいからではないことを伝える。②相手の感情からくる言い分もきちんと聞く。そのタイミングで「間違っている」といった形で相手を否定しないこと。
この二点を守って話し合いを進めることが重要です。

揉めやすいケースには共通点がある

ただ、遺産分割が先鋭的な対立に発展するケースは、話し合いの前提となる情報が、相続人間で揃っていない場合に多くなります。

例えば、相続財産に不動産が含まれている場合、売却して代金を分けるのか、誰かが取得して他の相続人に代償金を払うのか、共有のままにするのかという選択が必要になりますが、どの選択が合理的なのかは、不動産の評価額(時価額)が分からなければ、明らかになりません。不動産を単独取得しようとする人がいたとして、その代償金がいくらなのか分からない状態で話合いをしても、解決に向かうことはありません。

また、特定の相続人が生前に多額の援助を受けていた場合や、被相続人の介護を一人で担ってきた場合には、「その分を遺産分割に反映すべきだ」という主張が出ることがあります。これは法律上も「特別受益」「寄与分」という概念として扱われますが、認められる範囲には一定の基準があり、感覚的な「不公平感」がそのまま通るわけではありません。ここは、裁判実務上の扱いも把握しておくことが、建設的な話し合いをする一つの前提になります。

感情的な主張をぶつけ合う前に、まず客観的な事実と法的な枠組みを整理することが、結果的に話し合いを早く終わらせることになります。

話し合いをスムーズに進めるための順序

遺産分割の話し合いは、進める順序を間違えると行き詰まりやすくなります。
「この財産は私がほしい」とか「こういう分け方をしよう」という結論の前に、前提となる情報を全員で共有することが先です。

つまり、①まず誰が相続人なのかを戸籍で確認します。思いがけない相続人の存在が後から判明すると、それまでの話し合いがやり直しになります。次に、②遺産に何が含まれるかを明らかにします。預貯金、不動産、有価証券といったプラスの財産だけでなく、借入金や保証債務などのマイナスの財産も含めて把握します。その上で、不動産については評価額について全員が納得できる根拠を整えます。
ここまで情報が揃って初めて、「誰が何を取得するか」の話し合いに入ることができます。

更に、③特別受益や寄与分の主張がある場合は、それを裏付ける資料を用意した上で提示することで、感情論ではなく事実ベースの議論になりやすくなります。ただ、昔の話になると、資料がないことも当然ということになりますが、その場合、その主張の全部を認めてもらえなくてもいい、一部でも考慮して欲しい、といったトーンで主張する方が現実的でしょう。

話し合いがまとまれば遺産分割協議書を作成し、金融機関での解約・名義変更、不動産登記へと進みます。口頭での合意だけでは後からトラブルになることがあるため、書面化は必ず行ってください。

弁護士が入るタイミングと、その効果

弁護士への相談は、「完全に行き詰まってから」という方が少なくありませんが、対立が激化する前の段階で関与することの方が、実際には解決が早くなることが多いです。

感情的な対立が起きる前であれば、弁護士が各相続人の法的な立場と主張の整理を手伝い、「どこまでは主張できて、どこからは難しいか」の見通しを示すことができます。本人同士では言いにくいことも、弁護士を通じて伝えることで、感情的な摩擦を避けやすくなります。

弁護士は、原則として、相続人の一人の代理人しかできません。例外的に、相続人のうち利害が共通する人たちがいて、その全員が承諾しているのであれば、複数人の代理人をする、ということも許される場合があるでしょうが、相続人全員の代理人をする、というのはまず認められません。

相続人が10名以上いるケースで、感情的な対立が起きないようにするため、月に1回、全員に集まってもらって、進捗状況を報告し、何か個別の主張があれば、その場で決を採る、ということをして、2年近くかけ、不動産の売却や株式・事業の売却といったことを進めていったケースがありますが、その際、日頃から、自分が一部の相続人の代理人であるという前提に立ちつつ、対立しないようにするために、自分の依頼者だけが得をするような主張は基本的にしない、という方針を他の相続人にも説明して、理解を得た事案がありました。早期に話し合いに入ったことで、功を奏したケースです。

ただ、一般的には、一部の相続人がすでに弁護士を立てている場合、他の相続人が自分だけで対応し続けることは、交渉上不利になりやすい状況です。その状況が続くと、感情的な対立となって交渉が膠着状態になる可能性が高まるため、他の相続人においても弁護士が窓口になることで、直接のやり取りによる精神的な負担を軽減しながら、法的な見通しに基づいた対応を進めることができます。

話し合いでまとまらない場合は、家庭裁判所での遺産分割調停、さらに審判へと進むことになります。調停・審判の段階になると、資料の準備や主張の組み立てが結果に直結するため、早い段階から弁護士が関与していることが有利に働きます。遺産分割の手続きや弁護士への相談については、遺産分割ページをご覧ください。

遺言書があれば、この話し合い自体を避けられる

遺産分割の話し合いを不要にする、あるいは大幅に簡略化する方法があります。被相続人が生前に遺言書を残しておくことです。有効な遺言書があれば、原則としてその内容に従って遺産が分けられるため、相続人間で一から話し合う必要がなくなります。

遺言書は「揉める前提の人が使うもの」ではなく、残される家族の負担を減らすための準備です。遺言書の作成をご検討の方は、遺言書作成のページをご覧ください。

ご相談ください

弁護士法人本江法律事務所では、福岡で遺産分割に関するご相談を承っています。「まだ話し合いは始まっていないが、揉めそうな予感がある」「すでに関係が悪化している」どちらの段階でも対応しています。まずは現在の状況をお聞かせください。事案に応じた進め方と見通しをご説明します。