「納得できない遺言」があるとき、何を確認すべきか

ご家族が亡くなった後、遺言書が見つかり、その内容を見て「本当に本人がこのような遺言をしたのだろうか」「内容が不自然ではないか」と感じることがあります。特に、これまでの家族関係や被相続人の意向からみて不自然な内容であったり、作成当時の判断能力に疑問があったりする場合には、遺言の有効性そのものが問題となります。

もっとも、遺言書に納得がいかないとしても、法的に無効だと主張するには越えなければならないハードルがあります。遺言は、法律で定められた方式に従って作成されていれば効力を生じるのが原則です。そこで、これを争う側、つまり無効だと主張する側は、どの点が法的に無効原因にあたるのかを具体的に主張し、必要な資料によって裏付けることが求められます。

例えば、民法は、遺言について要式行為であることを定め、自筆証書遺言や公正証書遺言の方式も個別に定めています。そこで、遺言として定められた方式が守られていない、といった「方式違背」を主張することも一つの方法です。

つまり、遺言の無効を問題にするときは、感情的に「不公平だ」「不自然だ」と訴えるだけでは足りません。裁判所から法的に無効と判断されるためには、遺言能力、方式違背、口授の有無、生前の事情との整合性など、法的な争点を一つずつ整理していくことが重要です。

遺言が無効になる代表的な場面

まず多いのは、遺言能力がなかったのではないかという争いです。遺言をするには、その遺言内容と法的結果を理解して判断できる能力が必要です。
民法は15歳以上で遺言できるとしていますが、実務上よく問題となるのは、高齢者の認知症、せん妄、精神疾患、脳血管障害などにより、作成時にその能力があったかどうかです。認知症であることだけで当然に遺言能力が否定されるわけではありませんが、診断書、診療録、看護記録、改訂長谷川式簡易知能評価スケールの点数、当時の言動、遺言内容の複雑さなどが総合的に見られます。

次に、上記のように方式に違反している場合です。遺言は、民法960条により法定方式に従わなければなりません。
自筆証書遺言であれば、全文、日付、氏名の自書と押印が必要であり、公正証書遺言であれば、公証人が遺言者の口授を受け、証人2人以上の立会いのもとで作成する必要があります。
また、未成年者、推定相続人や受遺者、その配偶者や直系血族などは公正証書遺言の証人になることができません。さらに、二人以上が同一の証書で遺言する共同遺言は禁止されています。

公正証書遺言は「公証人が関与しているのだから絶対に有効」と誤解されがちですが、そうではありません。公正証書遺言であっても、遺言能力が欠けていた場合や、証人に欠格事由がある場合、あるいは民法969条の「口授」が実質的に欠けていたと評価される場合には、無効となり得ます。

実務で本当に重要なのは「何を証拠にするか」

遺言無効の争いで結論を左右するのは、抽象論よりも具体的な事実の主張であり、それを裏付ける客観的な資料の存在です。
例えば、遺言能力を問題と考えているのであれば、診断書だけでなく、作成前後の診療録、介護記録、施設職員の記録、面会時の様子、日常生活での判断状況などを確認することが重要です。
また、遺言の内容自体も判断材料になります。極端に不自然な配分であったり、それまでの人間関係や従前の遺言内容と大きく食い違っていたりする場合には、その不自然さが遺言能力欠如を推認させる間接事情になることがあります。

口授が争点になる公正証書遺言では、公証人とのやり取りの具体的内容が問題になります。単に公証人の質問にうなずいた、肯定したというだけでは足りず、遺言者が自分の言葉で、誰にどの財産をどのように処分するのかを語ったといえるかが問われます。この点は、形式だけ整っていても、中身の手続が民法の要求に達していなければ無効になるという意味で、実務上かなり重要です。

裁判例からみる「無効になりやすいポイント」

裁判例でも、遺言能力や口授の有無が中心争点になることが多いです。

東京高裁平成25年3月6日判決は、妻に全財産を相続させる旨の自筆証書遺言の後に、妹に全財産を相続させる旨の公正証書遺言が作成された事案で、その作成時に精神疾患で入院していた遺言者の具体的な問題行動から判断能力が不十分と見られること、妻が生存しているにもかかわらず、全く反対の内容の遺言を作成するという経緯の不自然さなどを踏まえて、遺言能力を否定して公正証書遺言を無効としました。

東京高裁平成27年8月27日判決は、公正証書遺言の「口授」が争点となった事案で、それを公証人による「読み聞かせ」(同条3号)及び遺言者による「承認」(同条4号)とは別の方式として設けられた趣旨から、遺言者が、公証人の確認に対して肯定的応答をした(うなづくなど)だけでは足りないとして、無効と判断しました。

また、東京地裁平成28年8月25日判決は、遺言作成の約2か月前の認知機能検査結果や、その後の認知症診断、医師の意見書等を踏まえ、遺言能力がなかったとして公正証書遺言を無効としました。

これらの裁判例から分かるのは、裁判所は「公正証書遺言だから有効」と単純には考えていないということです。作成時の心身状態、遺言内容の合理性、作成手続の具体的経過を総合して判断しています。逆にいえば、遺言の無効を争う側としては、その総合判断に耐えるだけの具体的な資料収集が欠かせません。

無効を争う前に確認しておきたいこと

実務上、まず確認すべきなのは、何を目的に争うのかです。
遺言の全部を無効としたいのか、一部の条項だけを問題にしたいのか。遺言無効を主張した後に、遺産分割協議や遺産分割調停で解決することを見込むのか。それとも、遺留分侵害額請求など別の手段を考えるのか。ここが曖昧なままだと、資料収集も訴訟方針もぶれやすくなります。

また、訴訟の見通しという意味では、相続人間でどこまで認識が一致しているかも大切です。全員が「この遺言はおかしい」と考えているのか、一部だけが争うのかで、進め方はかなり異なります。参考記事でも、相続人全員が争わない場合と、一部が争う場合とで進め方が分かれることが整理されています。

弁護士に相談するメリット

遺言の無効を争う場面では、感情的な納得感と、法的に通る主張とは一致しないことが少なくありません。弁護士が関与することで、まず、争点を「遺言能力」「方式違背」「口授」「不自然な内容」などに整理し、どの資料を集めるべきかを早期に見極めやすくなります。

また、遺言無効を主張するか、それとも遺留分侵害額請求や遺産分割の中で解決を図るべきかは、事案によって違います。遺言を全面的に争うことが本当に適切なのかを、証拠と見通しを踏まえて検討することが重要です。

遺言の有効性に疑問があるときは、早めにご相談ください

遺言を無効と争う事件では、時間が経つほど、診療記録や介護記録の把握、関係者の記憶の整理が難しくなることがあります。特に、遺言能力や口授の有無を争う場合には、作成当時の具体的状況を示す資料の確保が重要です。

遺言の内容に納得がいかない、公正証書遺言だからといって安心できないのではないか、被相続人の当時の判断能力に疑問がある、といった場合には、早い段階で争点と証拠を整理することが大切です。福岡で遺言の有効性についてお悩みの方は、弁護士法人本江法律事務所までご相談ください。

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